中村さんと僕と

12/28
前へ
/52ページ
次へ
「美味しいでしょ?」 「うん、青春って味で美味しい」 僕がそう言うと中村さんは嬉しそうに笑った。 「山田くんも青春が分かってきたね」 「うん、たぶん」 まだまだ暑いのでこの日はレモンを食べ終えると帰った。 「また明日」 「うん、ばいばい」 いつものように僕の家の前で別れた。 それからしばらくはいつも放課後になるとふたりで帰った。 九月中旬、まだ残暑で帰りの時間でも暑い。 「一緒に遊ぼ」 「うん……え?」 いつもと違う言葉に返事をした後に気づいた。 「だから、遊ぼ。それとも私とは遊びたくない?」 中村さんはしょんぼりしながら言う。 「そんな事ないよ、いつもは帰ろって言ってたからちょっとびっくりしただけ」 「そっか。じゃあ行こう!」 中村さんはぱぁっと笑顔を咲かせると、僕のカバンを持って教室から出ていった。 僕も急いで教室を出たけど中村さんは廊下を全力疾走している。 「えぇー!?ちょっと待ってよー!」 僕も慌てて走る。 「あははー、はやくはやくー」 中村さんは楽しそうに走る。 「こらお前らー!高校生にもなって廊下を走るんじゃない!」 「はーい!あははー!」 般若のような怖い顔した生活指導の先生に怒られても中村さんは楽しそうに走った。 中村さんは特別棟の3階にある奥の教室前でようやく止まった。 「ここ!」 中村さんは息を弾ませながら笑顔で言う。 「ヘイパス!」 「うわっ!?」 中村さんは僕のカバンを投げた。僕がそれをキャッチして顔を上げると、中村さんは教室に入っていった。 僕はカバンを持ち直してから教室に入った。 「何ここ?」 3つしかない机と椅子は端に寄せられ、窓の下にある本棚には明らかに子供向けの本がずらりと並んでいる。 後ろにあるカバン収納用の棚には、箱が入っている。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加