中村さんと僕と

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連れてこられたのは居酒屋だった。 「いらっしゃい!おや、山田さん。息子をうちでグレさせようって魂胆かい?」 そう言って出迎えてくれたのはねじり鉢巻きをつけたおじさん。 「いや、こいつにはウーロン茶で頼むよ」 「分かってらぁ」 苦笑する父さんに、おじさんは威勢よく返事する。 「座るか」 「うん」 父さんについていき、角にある座敷の席に座る。 「好きなの頼め。なんでもいいぞ」 父さんは僕の前にメニューを置いた。 「ラーメンと唐揚げ」 「はは、若いな。おやっさん、注文いいかい?」 「あいよー、今行くから待ってろ」 おじさんはメモ帳を持って席に来た。 「ラーメンと唐揚げとウーロン茶。それといつもので」 「おう、ちと待ってろ」 おじさんはさらさらとメモをすると、厨房に戻った。 「いつもので通じるんだね」 「まぁよく来てるからな。母さんには内緒にしてくれよ?」 父さんはどこか楽しそうに言う。 「母さんから聞いたよ、女の子の友達がいるんだって?」 僕はなんだかきまずくなってうつむく。 「別に責めたり冷やかしたりするつもりはないぞ、母さんもその事は反省してるよ」 「……うん」 「へいお待ち!なんでぇ坊主、しけた面してんじゃねぇか。ここで説教垂れんのはやめてくれよ」 「そんなことはしないよ」 「絶対だかんな」 おじさんは唐揚げとウーロン茶、熱燗と焼き鳥を置いて厨房へ戻る。 「なぁ、中村さんってどんな友達なんだ?」 父さんはお猪口にお酒を注ぎながら聞く。 「変な子」 「変な子って……どう変なんだ?」 「童謡のおかしな替え歌歌ったり、レモンにスティックシュガーかけて食べたり、学校にガスコンロと食材持ってきて一緒に鍋やったり」 「……それはずいぶんおかしな子だね」 父さんは一瞬固まってから口を開いた。
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