中村さんと僕と

21/28
前へ
/52ページ
次へ
台所へ行くと、食卓には数種類の鍋ベースが置いてある。 「どうしたの?これ……」 「父さんから聞いたわ、放課後ふたりで鍋してるんだってね?」 「うん、まぁ……」 怒られるかな?でもなんでこんなに置いてあるんだろう? 「よかったらこれ持っていきなさい、今日特売で安かったのよ」 「え?いいの?」 「いいから買ったの。なんだか面白そうな事してるじゃない?よかったら母さんにも中村さんのお話、聞かせてくれる?」 中村さんを友達と認めてもらえたようで、僕は嬉しかった。 「うん、勿論だよ!中村さんはね……」 僕は母さんに中村さんの話を聞かせた。 僕の絵を褒めてくれたこと、変な替え歌を歌うこと、コギャルを言い負かせたこと、やたら青春について語ること、ガスコンロを持ってきてまで鍋をしていること……。思い出した順に話した。 母さんは表情をころころ変えながら聞いてくれる。 「なんだか本当に変わってるわね、中村さんって」 「うん、でもいい子だよ」 「そうみたいね。そうだ、土鍋でやってるならインスタントラーメンでも持って行ったら?ほら、5食入りのやつ」 「えっ」 意外な提案に驚く。 「だって学校は週に5日でしょ?安いやつならひと袋200円くらいだし、お鍋より安く済むわ」 確かに母さんの言うことにも一理ある。 「今度中村さんに聞いてみるよ。鍋の元もありがとう」 「どういたしまして」 母さんは嬉しそうに微笑んだ。 翌日、僕は鍋ベースを3つ持って登校した。途中でコンビニに寄ってバラで売ってるインスタントラーメンをひとつ買う。 店員さんは首を傾げながらレジ打ちをしてくれた。 つまらない時間を過ごして放課後、僕と中村さんは遊戯室へ行った。 「中村さん、母さんからいくつか鍋ベース貰ってきたよ」 僕はカバンから鍋ベースを取り出した。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加