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父さんはべーゴマと台の他にカルメ焼きを買った。
「ほら、お前のぶんだ」
父さんは僕にカルメ焼きをくれた。
「ありがとう、いただきます」
カルメ焼きはサクッと軽い食感にシンプルな甘みのあるお菓子だった。
「美味しいね、これ」
「だろ?父さんが子供の頃はカルメ焼きをかけてべーゴマ勝負したもんだ。負けたヤツが駄菓子をひとつ奢るってルールでな」
父さんは懐かしむように目を細めながら言う。
「楽しかったんだ?」
「まぁな」
父さんは照れくさそうに笑った。
家に着くとさっそくべーゴマを教わった。
父さんの教え方は動画を見るよりわかりやすい。
「あ、そうだ。孝汰、ちょっと貸してみろ」
「うん」
父さんに言われべーゴマを貸すと、それを回した。
「できるかな?」
父さんはそう言いながらべーゴマをもうひとつ回した。
2つ目のべーゴマは1つ目の上で回っている。
「すごい!父さん、僕にも出来る?」
「練習すればな」
「教えてよ」
「仕方ないなー」
父さんは嬉しそうに言うと、赤いマジックペンで台の真ん中に点を書いた。
「この印を狙って回してみろ」
僕は言われた通り、点に狙いをさだめて回してみる。だけど……。
「あれ?」
べーゴマは点から3センチほど離れたところで着地して回った。
「こればかりは練習あるのみだな」
確かに父さんの言う通りだ。
「じゃあこれは後で練習するよ。勝負しよう」
「いいぞ」
僕と父さんは、夕飯が出来るまで回し続けた。
何回勝負していたのかは分からないけど、僕は2回しか勝てなかった。
「うーん、難しい……」
「いい線はいってる。後は慣れだ」
「慣れかぁ……」
父さんは突然ふっ、と笑い出した。思わず怪訝な目で見る。
「あ、いやすまん。それにしても中村さんか、と思ってな」
「え?」
「父さんが子供の頃な、実はひとりだけべーゴマ勝負で勝てないやつがいたんだ。それが中村って苗字だったのを思い出したんだよ」
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