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「へぇ、そうなんだ……。もしかしたら中村さんはお父さんのいう中村さんの娘さんかもね」
「いや、それは無い」
父さんは首を横に振った。その目は悲しそう。
「なんで?」
「中村は自殺して死んだんだ……。確かに娘さんもいたらしいが無理心中したと聞いたな……」
答えに詰まって僕は下を向いた。
「そんな顔をしないでくれ」
「うん……」
父さんから聞いた話は確かにとても悲しい話だけど、僕はどこか引っかかった。それがなにかは考えても分からない。
もやもやした気持ちのまま、僕は風呂に入って寝た。
翌日、この日はひとりでべーゴマの練習をしたり、父さんと勝負をしたりとべーゴマ漬けの1日だった。
夕飯と風呂を終え、いつものように自室へ行こうとすると両親に呼び止められた。
「孝汰、少し待ちなさい」
「ん?なに?」
僕は階段にかけてた足をおろし、ふたりの前に立つ。
「これ、少しだけど受け取って」
そう言って母さんは封筒を僕にくれる。開けてみると五千円札が入っていた。
「え?悪いよ」
返そうとすると押し返された。
「いいから受け取ってくれ」
「年頃の男の子はもっとお金使って遊んでる子多いんだから。鍋代の足しにでもしてちょうだい」
どうやら引き下がる気は無いらしい。僕はありがたく受け取ることにした。
「ありがとう、じゃあ大事に使わせて貰うよ。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は五千円札を財布に仕舞って寝た。
翌日、母さんが買ってくれた鍋ベースがまだあるので少しはやく学校を出て、遊戯室に置いた。
そして教室に戻り、放課後を待った。
ゆっくり時間が流れて放課後。
「一緒に帰ろ」
中村さんは久しぶりにその言葉を言った。
「うん、帰ろうか」
カバンを持って席を立つ。
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