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高校の入学式、僕は新入生として参加した。
入学式が終わり、教室に行けば自己紹介が始まる。言うことは決まっていて、名前と趣味だけの簡単な自己紹介。これから仲良くする人をこの2つの情報だけで探せなんて無理な話だと僕は思う。
「山田孝汰、趣味は絵を描くことです」
皆の視線は一気に集まる。僕にとってはこれが辛い。
自己紹介や先生の話も終わって下校となると、何人かの生徒が僕の机を囲んだ。
「ねぇ、何描いてるの?」
「ちょい見してよ」
皆が期待の目で僕を見る。今すぐここから逃げ出したくなった。
それは何故か?絵が下手という訳では無い。僕が描くのは人物や風景で、特に“都会の中の小さな自然”を見つけて描くのが好きだった。
渋々スケッチブックを広げ、最近描いた自信作を見せる。それは電柱の下に咲いた小さな花。僕は昔からこういうものが好きだった。
彼らは予想通りの反応を見せる。
「あーね……」
「ま、上手いんじゃん?」
「上手いけど地味ー……」
彼らは勝手に期待して勝手に失望して帰っていく。
これが今時のアニメやゲームのキャラクターだったら僕は多少人気者になれただろう。
実際、中学時代のクラスメイトにそういうものを描いてる人気者がいた。
僕はどうにも人気のゲームやアニメが好きになれなかった。
この年頃に人気なのは大半がバトル物で、当たり前だが暴力まみれの作品で、そういったものは苦手だった。
僕は彼らに失望しながら家に帰った。
「ははっ、ぼっち確定高校生活……」
力なく笑いながらため息をついた。
翌日、重い足取りで学校へ行く。
高校はスマホ持ち込み自由だ、きっと裏で陰険だなんだと言われるんだろう……。
そんな事を考えながら登校する。
特に誰とも会話をすること無く1日が終わった。
放課後、荷物をまとめてると僕を覆う影が出来た。顔を上げると美少女がいた。長い黒髪を高い位置でひとつにまとめ、色白な小顔には大きな目、筋の通った鼻、薄い唇が綺麗に並んでいた。体つきも華奢だ。
「ねぇ、一緒に帰ろ」
彼女は無垢な笑顔で言う。
「はい?」
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