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中村さんは用水路の近くに座り込み、じっとメダカを見つめた。
「どうしたの?」
「なんでもなーい」
中村さんは僕の隣に戻って歩き出したので、僕もそうした。
「メーダーカーの学校よりー♪マーグーロー漁船♪」
「え……?」
いきなり訳の分からない替え歌を歌い出す中村さんを凝視する。
「メダカって食べごたえなさそうじゃない?だったらマグロ漁船に乗り込んでマグロ釣って食べたいなー」
本当によく分からない。
ちょうど中村さんのおかしな歌の話が終わったところで僕の家の前に着いた。
「僕の家ここだから」
「そっか、またね」
中村さんは笑顔で手を振った。
「うん、中村さんも気をつけて」
僕がそう言って手を振り返すと、中村さんは嬉しそうに背を向けて帰っていった。
僕は自室のベッドに寝転んで中村さんの事を考えた。
黒くてサラサラしたポニーテール、色白だが健康的な肌の色、整った顔立ち、華奢でスレンダーな体つき……。全体的に健全だ。
たぶん何も知らない小中学生が思い描く女子高生はこんな感じだろう。
「一緒に帰ろ、か……」
これまでの人生で1度も言われたことがない言葉だ。
「また明日も一緒に帰れるかな?」
彼女の事を考えると頬が緩んだ。僕は初めての友達に純粋に浮かれている。
夕飯や風呂を済ませ、明日に備えて早く寝た。
もしかしたら一緒に登校も出来るんじゃないかと淡い期待を彼女にした。
しかし翌日、登校中に中村さんの姿を見ることはなかった。
教室に入ると彼女は廊下よりの中央の席でぼんやりと遠くを眺めていた。
一瞬話しかけることも考えたが話題がない。何より下手に話かけて中村さんの機嫌を損ねたり、周りに冷やかされるのが怖かった。
結局1度も話しかけずに今日が終わりかける。
休み時間に絵を描いて途中悩むふりをしながら中村さんを観察した結果、分かったことがある。
彼女は誰かに話しかけられることも話しかけることもない。つまり僕と似たような学校生活をしているということ。
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