始まり

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中村さんほど可愛ければ誰かが口説きにかかりそうなものだが、どの男子も話しかけるようなことはしなかった。 チラチラと彼女を見て何か言う人達がいるがそれまでだ。 軽く人間観察をしながら僕の1日が終わった。 「一緒に帰ろ」 中村さんは昨日と同じように僕を誘った。 「うん、帰ろうか」 僕はカバンに荷物を詰め込んで席を立った。 それから僕は登校時間を早めたり遅くしたりした。全ては中村さんと登校をするため。 しかしどの時間でも彼女と会うことはなかった。時には早めに家を出て通学路に置いてあるベンチに座って待ち伏せなんかもしてみたが、結局中村さんを見かけることはなかった。 不思議な事にどの時間に登校しても中村さんは自分の席に既に座っており、どこかを見つめていた。 僕は中村さんと登校する事を諦めた。 5月上旬、皆が学校に慣れ始めて五月病だなんだという季節。 僕にとっては大きな、世間からすれば実にちっぽけな出来事が起きた。それは授業間の10分休憩でのこと。 「なぁ、山田。お前中村と付き合ってんの?」 入学して初めて中村さん以外の生徒に話かけられた。 「え?いや……付き合ってないけど……」 「うっそだー!付き合ってるから一緒に帰ってんだろー?」 確か秋葉くんとかいった、この男子生徒。何故彼が僕と中村さんの仲を勝手に決めつけるのか疑問だったし、不快でもあった。 「うるさいな、付き合ってないって言ってるだろ!なんで君に決めつけられなきゃいけないんだ!そもそも君、僕とも中村さんともまともに口を聞いたことがないじゃないか。何を根拠にそう決めつけるんだ!」 怒鳴り終えた後に自分でも驚いた。 「わ、わりぃ……」 秋葉くんはそそくさと自分の席に戻り、周りからは冷たい視線が投げ掛けられた。
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