19人が本棚に入れています
本棚に追加
これは現実なのだろうか。
すでにわからなくなっていた。
ちゃんと自分の足で地面に立っている。立っているつもりだ。
一歩踏み出してみる。歩いてみる。
ぐらぐらと世界が揺れているように感じた。
俺が今生きているこの世界は、こんなにも不確かなものだっただろうか。
大股で行き交う人々。空を飛ぶ鳥。雲。太陽。排気ガスを撒いて走る車。
目で追ってみる。何か、酷く乾燥している。いつからこんなふうになってしまったのだろう。なんて無機質な世界だ。
自宅に帰ると床に転がった。
俺の布団はあんな色じゃない、と思った。
やはり何かが狂っている。
何かのせいでどこかが狂ってしまった。
そのせいで何もかもがこんなにも違和感で溢れているのだ。
確かに存在した死体がない。
何故だ。
脳を揺さぶる。
両目に指を突っ込んだ。力をこめる。
圧力。
転がり落ちる眼球を妄想する。
そろそろと瞼を開く。足元にアスファルトの感触があった。
死んだ人間が倒れていた場所だ。
死体はやはりなかった。
血の痕も、ない。
死体も血も、最初からなかったに違いない。靴の裏で地面を撫でてみる。砂利を撒き上げるだけで、何も起こらない。その砂利さえも存在感が希薄だった。
最初のコメントを投稿しよう!