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でも消えたのだ。ちょっと目を離した隙に、死体も血も消えていた。
こんなことがあるのだろうか。
死体を見たのか?
本当に?
血の匂いを嗅いだのか?
どうだ?
思い返してみると、わからなくなってきた。
幻覚だとは思えない。あんなにリアルに人が倒れて、血を流して。
でも現実に死体は存在しない。
存在しない?
存在しない死体。
存在しない死体を存在すると思いこんでいる。
少なくとも刑事はそう思ってる。
いや、誰が聞いてもそう思う、間抜けな話しだ。
俺はなんだ。
自分の存在感が薄れていく。
俺の見ている世界は、本当に存在しているのかもわからない。
こんな風に考えている事自体どうかしている。俺はどうかしている。
今、こうやって刑事に事情聴取されている、これはどうだ?
俺の創り出した妄想の世界?
「君、本当に死体を見たの?」
最初と同じ質問が出た。会話が繰り返されようとしている。
刑事は虫けらを見るような目で俺を見ていた。
俺は口を閉ざした。それから何を訊かれても何も応えなかった、答えられなかったのか。
そうしているうちに釈放され、外に放り出された。もう日は昇っていた。頭の上にある太陽を見上げる。眩しいし、じりじりと太陽の熱を感じる。
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