NO SURPRISES

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 でも消えたのだ。ちょっと目を離した隙に、死体も血も消えていた。  こんなことがあるのだろうか。  死体を見たのか?  本当に?  血の匂いを嗅いだのか?  どうだ?  思い返してみると、わからなくなってきた。  幻覚だとは思えない。あんなにリアルに人が倒れて、血を流して。  でも現実に死体は存在しない。  存在しない?  存在しない死体。  存在しない死体を存在すると思いこんでいる。  少なくとも刑事はそう思ってる。  いや、誰が聞いてもそう思う、間抜けな話しだ。  俺はなんだ。  自分の存在感が薄れていく。  俺の見ている世界は、本当に存在しているのかもわからない。  こんな風に考えている事自体どうかしている。俺はどうかしている。  今、こうやって刑事に事情聴取されている、これはどうだ?  俺の創り出した妄想(ゆめ)の世界? 「君、本当に死体を見たの?」  最初と同じ質問が出た。会話が繰り返されようとしている。  刑事は虫けらを見るような目で俺を見ていた。  俺は口を閉ざした。それから何を訊かれても何も応えなかった、答えられなかったのか。  そうしているうちに釈放され、外に放り出された。もう日は昇っていた。頭の上にある太陽を見上げる。眩しいし、じりじりと太陽の熱を感じる。     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加