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それなら俺が見た状況を俺の手で創り出してみればいい。
この場所に死体を転がせばいいわけだ。
そして同じように血を流してみよう。
人が来た。
俺は手に、ナイフを握っている。
そんな物をいつ買ったのか。記憶が、ない。
ナイフでその人間の腹を刺してみた。
刃が肉に埋まる感触が伝わる。
それでもやはりリアルだと感じない。人間を刺した衝撃とはこんなもんか?
現実的(リアル)じゃない。
俺が刺した人間はガシャ、と簡単に崩れ落ちた。
これで終わり?
あっけない。人を刺したというのに心の中は静まり返っている。波一つ立たない。
現実感がまったくない。指先の濡れた感触すら現実的ではなかった。
ふと、何かを感じて振り向いた。
そこには男が立っていた。携帯を耳にあてて、何か喋っている。
ついさっき刺し殺したはずの人間に目を落とす。そこに死体はなかった。消えている。
顔を上げる。携帯の男に見覚えがあった。知っている男だ。
足元に血溜まりができていた。コンクリートにじわじわと広がっていく赤い液体は俺の腹から流れ出ている。腹に、ナイフが突き立っていた。
両膝をつき、体を折った。
幻想が終わる。
こんなにもリアルに、痛みを感じ、死を、意識できている。
怖い。
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