第三章 交叉

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「いやぁ、休暇と言っても儂らには日常と何も変わらんよ、この時期は宿直ばかりじゃからな」 ブラン先生がお茶を出す。 この時期は暑いので、水出し茶が用意された。 「一応お土産を持って来ました」 包みを広げると、中から焼き菓子が入っていた。 「見たことも無い食べ物じゃな、これは何じゃ?」 「『クッキー』です」 小麦粉の需要がパンしか無いこの世界では、発酵させないクッキーは未知の味だ。 小麦粉を水と油で練って焼く、単純だけど美味しい。 今回は砂糖を入れてあり、少し甘い。 「美味い、これは良いのう」 サクサクしていて実に口当たりが良い、しかも保存性もあり、有用な食べ物だ。 嘗てマリーアントワネットが「パンが無ければお菓子を食べれば良いのに」と言っていたが、その通りだと俺は思う。 結局は処刑されたけど、サンソンによって。 「小麦粉が銀貨二枚って高くないですか?」 小麦粉は小袋と大袋の二つが売られているが、小袋は銅貨十枚、大袋は銀貨二枚と価格が違う。 小袋なら小売り店で幾らでも買える、大袋となると商会本部や専門店まで行かないとならないし、しかも重い。
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