あわよくばの期待

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マンションの隣の部屋に僕の好きな人が住んでいる。 ふわり、チョコレートの匂いが鼻腔をくすぐった。バレンタインデーは明日だ。 「俺の家まで香りがする」 「好きな人にあげるんだっ」 と赤く染まった頬でにっこりと笑う彼女の笑顔が辛い。 これはもしかして好きな人が僕だったオチを狙おうか。 「えー好きな人誰なん」 「〇〇先輩!!」 心のなかで立てたフラグは華麗に回収され、僕はサクッと玉砕した。 まあこんな可愛い君に告白されるんだからその〇〇先輩ってやつは幸せだな!!心の中で吐き捨てて 「ふーんお幸せに」 「まだわかんないのにー!」 困ったように、でも心底楽しそうに彼女が笑う。もうそれでいいや、もうそれで。バレンタインデーなんて大っ嫌いだ!!! だから驚いた。今日の放課後にチョコレートを渡すんだと勇んでいた彼女が、泣き腫らした目で僕の部屋のインターフォンを押したことを。 手には朝、彼女が丁寧にラッピングしたチョコレートがそのままあった。 「振られた.....」 「お、おう残念だったな。まあ入れよ」 その〇〇先輩っていうのが彼女を振ったっていう事実がまず信じられないし、というか彼女を泣かせるのは本当にありえない。 あとついでに慰めてくれる男ポジションにいる自分が嬉しいような悲しいような。 振られた彼女以上にないまぜな気持ちで僕は彼女にお茶を入れた。 「あのね.....」 ぽつり、ぽつりと話し始める。辛抱強く話を聞いているうちに笑顔が増え、立ち直った様子だった。 「もう大丈夫そう?」 「うん、本当にありがとう。話聞いてもらえて嬉しかった!次また頑張る!」 彼女のふにゃりとした笑顔を見て幸せな気持ちになる。まあこれならバレンタインも悪くないかもなって、彼氏になれない僕だけど。 「お礼にしては失礼かもしれないけど、このチョコ食べて?」 差し出されたのは恐らく告白する用に作った本命チョコだったもの。 「いいの?」 「いや、そういう意味はないけど、話聞いてくれたお礼に!」 「ありがとう」 素っ気なく受け取って笑顔で扉を閉めて、部屋の中でガッツポーズをした。だってこれ本命チョコ(だったもの)!!!形は違うけどまあこれはこれで..... 箱をそっと開けて絶句した。ハート型のチョコケーキに 〝〇〇先輩??〟 と白いチョコペンで書いてあった。 「っっっ!!!やっぱりバレンタインデーなんて大っっっっっ嫌いだ!!!」
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