告白

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それゆえこの小山にはそこはかとなくみだらな雰囲気が漂う。県下でも知られた進学校でありながら、よく情事が原因でもめごとが起きた。やれ私の彼氏を寝取っただの、ホテルに私服で行っていただの、空き教室で……とやんややんやの大騒ぎである。まあ、私にはさして関係がなかった。あんまり男女のそういったトラブルには縁がないし興味がない。 けれどトラブルはあちらの方からやってくる。今もほら、梅が丘高校は大休憩にさしかかって、授業が終わりみながお弁当を広げ始めた。その時に。 「あんた、どういうつもりなのよっ」  女の絶叫するような鋭い叫びが2-Bの教室内を沈黙させた。みなが、 「あいつだ、元凶は絶対にあいつだ。みんな、あんまり関わらないようにしよう」 と言わんばかりに目を泳がす。泳がせた先のあいつは、ふうと色っぽく嘆息して眼を眇めた。二人は廊下に立って睨み合っている。男が口を切る。 「どういうつもりって?」 「あんた、知ってるのよ! またホテルに行ったでしょうっ」  絶叫する女の一声に、私と、私の逆隣の少年が身を一瞬だが強張らせる。どうしてだろう。あ、一緒にホテル行ったなこいつう、と私はほくそ笑んでしまう。叫びまわる先輩は昼休みで担任たちが出払うタイミングを計ってか、どこか道化じみたふるまいでみなを驚かす。大仰な仕草、嬌声に似た叫び声。先輩はチョコレート色の髪をきつく結わえ、大きな目を怒らして男を睨み据える。 「知ってるのよ。あんたが後輩の美奈子とホテル行ったのっ」 「さあ、覚えてないな」  楓君、お前は政治家かよ、と私が思わず噴き出したところで、先生方が騒ぎを聞きつけ戻ってきた。どの顔ももはや呆れている。錯乱状態に近い先輩を楓より引きはがしてのち、男も女もとくと説教される。ああ、この騒ぎで大休憩も終了だな、と思ったら案の定空気を読んだか読まないかのチャイムが鳴り始めた。 「さあ、もう三年の教室に帰りなさい」  そう言って教師が先輩のことを離すと、 先輩はずんずん楓に向かっていって、横面を思いっきりはたいた。 「あんたなんて、もう知らないっ」 ああ、先輩は楓君が好きなんだろうなあ、そうしみじみ考えさせられる一発だったと思う。
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