告白

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担任の、さえない黒髪の小野が、楓の頭を削ぎ落すようにごしごし揺さぶって、叱る。半ば嫉妬もあったのだろう。ちょっとこ憎たらしいように。 「お前なあ、浮気はばれないようにしろよ。いくら顔も頭もいいからってそういうことばっかりするのは男として風上におけないぞ」  反省してます、と楓が冷笑を浮かべる。ああ、これは男のことも女のこともなめてますね。間違いないですね。私も呆れてしまう。 「お帰りなさい、楓」 小野に叱り飛ばされ、それでもちっとも落ち込んでないように見受ける楓が隣の席に帰ってきた。次は社会だ。小野がさっきからずっと彼をうろんげに睨んでいる。 「教科書、出しなよ」  私が言うと、楓はゆっくり教科書を取り出した。私がちらと生徒会長を一瞥し、それから告げる。 「あんた、いつか刺されて死ぬよ」 「いいなあ、その死に方」  楓は本当に早死にしそうで怖かった。なんだかんだ言っても、隣の席だし、女癖は最高に悪いけど、友だし、少し心配。 ふうと、私は緊迫から逃れて息をつく。 私の席を挟んで、右側に王子様、左側に魔王様がいる、この不可思議な事態。 「なぜ桜子にはそのような幸運ばかりが訪れるのか」  とみなに妬まれる、私のミラクルな席順。 私の黒板向かって右側、王子様は、瀬戸観月君、テニス部のエースでありながら生徒会長をも務める、文武両道を絵に描いたような男である。その上顔が抜群によい。色白で、背はそんなに高くないけれど、ひきしまった顔だちをしている。よく遠足先で居合わせた別の学校の女子に逆ナンされる。俳優の卵と間違えられる。そのたびに王子様親衛隊が、刺し違うのかと思うくらいの勢いで戦闘を開始するので、見ていて飽きない。実家もお金持ちと聞いた。家が高級住宅地にある、らしい。とにかく学年、いや学校史から見ても、破格の美少年。  向かって左隣は、魔王様。星野楓。この男は見事にワイルドな悪い男の手本だった。さっきみたいな騒ぎはいつものことだし、泣かせた女は数知れず。色黒で、筋骨たくましく、背も高い。それでもって声もよい。だからみんなだまされるんだな、と私が笑うと、本当に美しく微笑む。ちょっと女みたいな顔もしていると思う。すっごく綺麗な女だと言われても納得する。よく歴史上に出てくる、悪妻みたいな雰囲気がある。いや、それは彼の裏事情も知っているからかもしれないけど。
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