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とにかく私の隣は絶世の美しいものたちがいつも登校してくるという、幸福な席順であった。クラスメートには常々妬まれた。私も昔は思っていた。
私がもし凄まじい美女でもあったら、二人が殴り合ってどっちかが奪い去ってくれるのに、と。
それが永遠に見果てぬ、かなわぬ夢だと知ったのは、いつの頃だったのか。
私は自分が劣った存在であることを、いやがおうにも知らしめられていたから、そんな夢も芥のようになって、すぐ消えていってくれたけど。
◆
兄の友人に悪戯されたのは、中学三年の時だった。私の家は母一人、兄一人、私一人の三人暮らしだった。その兄の友人が私たちのマンションに遊びに来て、兄の眼を盗んで私に悪戯しようとした。いや、おそらくあのままいったら暴行に発展していっただろう。
悲鳴を上げ、騒ぎまわり、兄が飛んできて最悪の事態になることまでは防げたが、それでも私の心には大きな傷が残った。
さして知らぬ男に性の対象として見られていた。
そのむなしさが、私の心にひずむ虚無の正体だった。
「母さんには心配かけるから内緒にしよう、な」
と兄に諭されたのも、今考えれば怖気が立つ。私はいまだに映画でもドラマでも、男女のそういったシーンがまったく見られなくなってしまった。見ると吐き気がこみ上げて、嗚咽を上げてしまう。スカートの中に手を入れられた時の恐怖、絶望。いまだに思い出しても鳥肌が立つ。
どうして、私だったのか。
憎しみが無限に湧き上がる。けれどこのトラウマこそが、私の人生をよくもわるくも変えてくれた。
民放系のドラマでは、いやNHKも分からないけれど、たいていは男女が結ばれて終わりである。菊花の契りエンド、といったものは皆無に等しい。男女がいい仲になって終わる――、そういったものは私には見られない。ならば、どうしたらいいのか、私は何を見て生きていけばいいのか。それを考えた時、私の頭にある結論が導き出された。
そうだ。男と男をむつみ合わせてしまえばいいんだ。
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