告白

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。 私に暴行を加えようとした男も、そいつをかばった兄も、みんなみんな勝手に結ばれてしまえばいい。そうしたら、私を性の対象として見なくなる。なんだか不可思議な動機だったが、それでも私にとってはすべてだった。 高校一年の時、母が地主と再婚して、我が家は一気に成金の呈をなしてきた。兄は県外進学のため出ていき、母は夫の家で幼子を育てるようになり、私は七丁目にあるマンションで一人暮らしを謳歌していた。その部屋にはボーイズラブの雑誌が散乱して、フィギュアあり、薄い本がありの凄まじい腐臭漂う空間が完成した。母が一度合鍵を使って侵入を試みてきたが、厭な顔をしてすぐに出ていった。 私は楽園を手に入れたのだ、と思うようにした。  そのうち、私は原作、動画のみに飽き足らず、ネットに跋扈している夢小説にトライしていた。原作ではない、自分たちのオリジナルの世界を原作より紡ぎ出す二次作品という奴である。私は夢中になった。けれどその作家も筆が遅いので、いつからか私は自分で書くようになっていた。それが将来の夢となったのは、いつぞやからか覚えていない。ひたすらに研鑽を積んだ。そうして私は、いつしかBL同人界の逸材とまで崇められるようになっていた。今やサイトには千の単位で毎日訪問者があり、私のサイトはネットニュースでも取り上げられる人気サイトになった。私はようやっと自分の居場所を見つけられた気がした。大きく息が吸える気がした。 ◆  そんなある日のことであった。  私は高校二年生になっていた。人気のない春の放課後、しずしずと机をふき、柔らかな光射し込む窓辺に置かれた花瓶の水を取り替える。  一緒に日直の仕事をこなしているのは悪い方のイケメン、楓だった。楓の存在は良くも悪くも目立つから、話は聞いていたが、怖くて近寄れなかった。話したこともさしてなかった。いくら私がブスだとしても、奴があるいはB専だとか、偏食家の可能性も捨てきれない。そんな心配も今思うと杞憂なのだが、それでも恐ろしかった。いくら私がブスだとしても。 あの日、春の夕暮れの光がまどろむ机の上に、私は自分の顔を映してみた。とてもじゃないが直視に耐えうる顔ではなかった。三つ編みにきつく結わえたヘア。目はかろうじて人並みの大きさを保っているけれど、鼻はこじんまりしていて、唇がややふとましい。要するにブスだった。
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