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歴史に残るようなブスではないが、なんにせよ気分がよくなる面構えではなかった。
こんなのと作業させられる楓君はさぞや気分を害しているであろう。
ちらと横目で楓の美しい顔を盗み見て、私は嘆息する。よく、BL界のレジェンドとなるべく彼と彼の友人を利用させて頂いた、その恐ろしさと罪深さも手伝って、私は彼の顔面偏差値の恐ろしく高い顔を直視出来なかった。彼がしきりにこちらを見つめてくるのは気配で悟ったが、こちらは申し訳なさゆえその視線がただとく過ぎ去ってくれることを祈った。でもよく考えてみれば、奴はいい奴ではないか? と私の脳裏を考えがよぎった。私のような日陰キャラとの日直の仕事を、よくも彼のような眩い存在の男が逃げずにつとめてくれたものだ、と思い直した。
そんな微妙な緊張が保たれた、春の残照を受ける教室にて、私は仕事を終えて彼へ頭を下げた。
「星野君、手伝ってくれてありがとう。それじゃあ」
私はこうべを垂れたまま彼がおうとか言って去ってくれることを祈ったが、彼は一向に過ぎ去ってくれなかった。
どうしてだろう。
私何か悪いことしたかしら。
そんな風に疑問に思っていると、目の前の彼が携帯を取り出したのが分かった。あ、もう私から去っていい感じですね。わかりました。そう思い、去ろうとした私の肩を、彼の腕が包んだ。そうして。
「これ、なあんだ」
私は彼の提示した携帯の画面を見て、あやうく絶叫したくなった。
それは私のBL小説サイトです!
私はのたうちまわってトイレに駆け込み何者かに向かって懺悔、土下座を繰り返したくなったが、なんとかこらえた。そしてぎりぎりで正常を保っている精神を立て直し、
「どうして?」
と問うた。楓は実に頭がよかった。
「ブログでお前情報を発信しすぎなんだよ。授業での内輪ネタとか、さらしてるからこんなことになるんだよ」
ああああ、と絶叫したかった。己のバカさが厭になった。もう完敗です。何でも言いなりになりましょう。お金でも貢物でも、だからこのことはみんなに黙っててください。お願いします。そういった旨のことを早口でまくしたてた気がする。楓はにやりと笑って、こう言った。
「お前も、なんでこの世界に入っちゃうかね」
いやそれにはかくかくじかじかの事情がありまして。
ん?
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