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今、お前、も、って言った? 私の頭が疑問符でいっぱいになる。も、って何。もって。
私は黄昏の光を浴びて眼を細め、最高に不細工であろう顔で楓に訊いた。
「あの、も、って……」
「ああ」
楓は何でもないことのように言う。
「バイなんだ、俺」
ああ、そうですか。はいはい、って。
「えええええええ」
私が思わず喚いてしまうと、楓がふふんと鼻で笑った。
「お前の妄想なんてまだまだだよ。実際はもっとすごいぞ」
「マジすか」
「マジ」
「見せてくれたりとか」
「それは嫌」
それから楓は言葉を継いだ。
彼は案外読書家であること。私の小説には内容は別にして才能があるように思ったこと。お前を至上の作家にすべくネタを提供してやってもいいこと。
私は嬉しくてふらふらしていた。あんまり幸福だった。夢がかなった気がした。興奮のあまり飛び跳ねそうになって、慌てて机の角に手を置いた。
でも、待てよ。彼のことだ。もしかして、その、見返りを求めてくるのではないか?
無理だぞ、私はいくら求められても絶対に無理だぞ。金は少しあるけど、やっぱり無理だぞ。私が人目を気にしながら問いかける。
「あの、お金とか払った方がいいのかな」
「なにそれ」
ギャグかよ、と言わんばかりに楓が噴き出す。
「いや、こう、ギャラ的なもので……そうでなかったら、どうして私にそんな提案をしてくれるのかなって、思って」
私のこの言葉に、楓がふいに遠くを見やった気がした。私はなんだか彼が遠くにいって消えてしまいそうで、ドキドキした。しばらく経って、楓が静かに言い放った。
「誰かに覚えていて欲しい恋を、しているからといったらどうする?」
私は鼻血が出そうなくらいの発奮を抑え、彼のことをまじまじと見つめた。しているのだ。この美しい少年は、恋を。それもなかなかの禁忌を冒した恋を。
「誰に、恋しているの?」
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