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この男と関わると、知らない間に足元をすくわれそうな気がする。もちろん気がするだけだ。関わろうとは思わないから、私が奴の多くを知るはずもない。
褐色の肌、やや厚い唇、太い眉。このあたりではごく珍しい系統の顔立ち。纏った白い衣服の形も、どこかおおざっぱに東の国を彷彿とさせるような詰襟の上着の裾がそのまま膝あたりまで長く垂れたような作りだ。タレ目ではあるものの、しかしその甘い印象を相殺するような三白眼。常時顔にたたえた、人を試すような笑み。ゆったりと笑っているようだが私には鋭い印象としか受け取ることができない。世にも珍しい金色の瞳は常人のそれに比べてどこか胡散臭くて、嘘を包み隠しているように見えた。
だってもう、扉を開けた瞬間から目が合うのだ。つまり扉が開くのに気づいて、薬屋が私たちの方を振り返ったわけではない。あらかじめ、扉が開くところを見つめていたことになる。
気味が悪い。
警戒している私を他所に、美しい言葉遣いで挨拶をした先生は、薬屋の座っているソファーの方向へと歩いて行く。私もそれに続く。できれば要件が終わるまで扉の横で待機していたいが、先生にもしものことがあったらそれこそたまったものではない。
二人がけのソファーに先生が座ったので、その横に立って待機することにした。座らないのは…もしもの時のためだ。
と言いうものの、実際のところ薬屋と面対したくないという理由が強い。
テーブルをかこむ空いている椅子はあと二脚あるものの、私が腰掛けないことに対して薬屋は何も言わない。ちらりとこちらを見る際に、静かに口角を上げただけであった。
やはり癪に触る。
「ユリの香りがしますが…。季節はとうに過ぎたでしょうから、香水か何かです?」
「ええおっしゃる通リです。少々値が張りましたが、瓶の美しさもあって買ってしまいました。」
先生の問いに対して、薬屋は上座側にある豪奢なカウンターの方向を振り返りながら言った。春から夏にかけてそこには毎回、ラピスラズリがところどころ埋め込まれた大きな花瓶があった。大輪のユリが少なくとも三輪は活けられていて、ツンと甘い香りを漂わせていたのである。
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