第一診察

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 今日はその花瓶の姿はなく、代わりにその数十分の一くらいの大きさの透明な小瓶が置いてあった。天井から垂れるシャンデリアの光を反射して、その中の液体ですら輝いているような錯覚に陥る。  持ったらせいぜい私の手のひらにでも収まってしまう大きさなのだろう。しかしその小さな体積から滲み出たという香りは鈍く部屋に漂って、この部屋にあるもの全てをユリの香りに染めてしまう。  落ち着かない。  自分が自分で気づかぬ間にいらいらしていた。少し冷静になろうと、これから病院に戻ったらすることを思い出してみた。ついでに景色も変えようと、目線を横に逸らしてみる。絨毯に織られた植物の模様が、くちゃっとまとまってわけがわからなくなっている。  まずこの薬局で買った薬を所定の場所にしまうこと。そして板間の掃除、今晩の夕食を調理…。献立は何にしよう。帰るころには体が冷え込んでいるだろうから、温まるものがいい…。  出かける前に干してきたシーツが乾いているだろうから取り込まなければ…などと考えていたら、やるべきことが案外多くて心がシラけそうになったが、結果落ち着きを取り戻したので良しとする。  「それと…そう。精神安定剤。葉状のものと粉末状のもの、両方いただけますか。」  「おや、以前買っていかれた分はもうお使いに?」   私が一人で精神統一している間に、雑談は商談へと変わっていたようだ。先生の要望を聞いた薬屋は、珍しく少し驚いたような顔つきになって、持ち上げたティーカップを口元で静止させていた。  「ええ。主に昨晩の患者様が。既に精神にはきているようですが、会話からだと原因がわからず、結局『観察』の形をとることになってしまいました。」  先生の声はどこか申し訳なさそうであった。それはおそらく患者に対して。  薬屋は、少々お待ちくださいね。と席を立って、先ほど振り返った小瓶の乗っかっているカウンターの内側に入った。身をかがめながら内蔵の収納を開けて、迷いない手つきで袋や箱を取り出す。
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