1人が本棚に入れています
本棚に追加
患者の顔はもとより血色の悪い顔であったが、それを言うとみるみるうちに蒼白を極めた。
以前の診察では、私は終始患者の背後に立っていたものの、今日はその位置を先生の横にずらした。つまりまじまじと患者を観察できる。
患者はどこか一点を見つめている。脳天からつま先まで寸分も動かなくなる。何か言いたげに唇をわずかに開く。この男はきっと、用意周到で慎重なものの、その分綻びが生じると頭の中が真っ白になってしまう人なのだろう。
「ご職業は、役人……魔女狩り執行部の幹事様でいらっしゃいますね?」
私の胴元あたりから、椅子に座った先生の声が聞こえると同時に、患者の薄い眉がわずかにこわばった。
***
ことのつながりはこうである。あの日、患者の職業をさらりと言い当てた薬屋から聞いた話だ。
以前、奴が薬を届けるだか売るだかのために街五つ分くらい離れた土地に行った時、幻覚払いの薬を買いたいと声をかけてきた者がいたという。この手の薬は、個人客では珍しいオーダーであったため、薬屋の記憶には鮮明に残っているらしい。
「二週間?くらい前でしょうかね。切羽詰まった様子でしたよ。その時は。患者はあなたかと聞いても、症状を聞いても、とにかくはぐらかされるだけデシタネ。そして出てくる言葉は幻覚払いの薬を寄越せ。だし。」
そこまで喋ると薬屋は、目線だけこちらに寄越して私たちの反応を伺った。先生が「話を続けろ」の意味で出した右手を確認すると、奴は既に充分すぎるだろう量を溶かすのをやめて木の枝のようなシナモンを皿の上に置くと、こう続けた。
「患者がどんな症状を抱えているのか、どんな体質なのかもわからない。そうなったら処方できる薬なんて安全をとって、副作用控えめのごくわずかなものだけでしょう?」
奴は言いつつティーカップを口元に運んで、その香りを楽しんでいる。ちなみに私はこの時、楽しそうだなお前だけが。という言葉をこらえるのに必死であった。
最初のコメントを投稿しよう!