第一診察

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 「…で、処方したのですか?」  やや呆れたような口調で、確認をかけるように先生が訊いた。  対し、薬屋は当然であるかのように  「エエ。もちろん。」  と微笑んでから、ティーカップに口づけた。  先生は何かいいたげであったが、先生自身に比べ適当なところがあるこいつに何を今更とも思ったのだろう。どうぞ続けてと、再び右手を差し出したのであった。  「ふふ、ご心配ならさらないで。幻覚払いと称して健康促進の薬草を買わせておきましタ。副作用もひとつもないはずですよ。おそらく。」    それはそれで…どうなのだろう。  苦くていかにもソレっぽいものをね。と言いながら、薬屋は正面のテーブルにティーカップを置いた。そしてその前傾姿勢のまま両膝に肘をつき、自らの両手の指を絡め、組む。今度はひたと目配せして、薬を(詐欺で)売ったその翌日のことを喋りだした。  要約すると、栄養剤を買わせたその日の夜は現地の宿に一泊した。次の日薬局へ帰る道中で、昨日薬を買いたいと言って来たその男の姿を見かけたという。しかし彼の周りには人だかりができていて、なおかつそこから聞こえる誰かの怒号や泣き叫ぶ声がうるさかった。喧嘩か何かかと思い、すぐに声をかけるのはやめたのだと。薬屋自身も特別急ぐわけではなかったことから、人だかりが捌けるのを待ってみることにしたらしい。  しかしこれが、喧嘩ではなかった。  「なんか焦げ臭いなーと思ったらですね。彼と、彼の同業者でしょうかね、横にいた人が、大きな松明を持ってまして。」  何をするのかと遠巻きに群衆を眺めていたら、鋭い慟哭が耳を劈いたという。この薬屋も流石に不審に思ったらしく、背伸びをして群衆の中心を見やると、  「彼が…昨日、幻覚払いの薬を買いたいと言ってきた男が、十字架に磔にされた女性の足元に火を放っていたんですよ。わたしが思うにあれは…」  魔女狩り  でしョうね。  先生はいつの間にか姿勢を正し、組んだ足の膝の上に両手を置いて、斜め下を眺めている。考え事の姿勢。  十数秒の間、先生の姿を眺めていた薬屋は、先生が完全に聞く側に徹したのを察してさらに続けた。
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