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「症状を聞いても患者はあなたかと聞いてもはぐらかしていたのは、きっと『狩をする側』という立場上の都合だったのでショウね。魔女狩りを取り仕切る人間が、幻覚に悩まされているなんて周りにバレたら、自分が仕事仲間に処刑される。どうして最寄りの病院ではなくて、わざわざ完全によそ者風のわたしに声をかけたのかもそこでわかりましたよ。パニックなりに彼も考えましたねぇ。」
今台無しになってしまいましたが。
ここまで喋ると薬屋は、伏せ身にしていた上半身をゆっくりと起こして大きく背伸びをしてからソファーの背もたれに沈んだ。濃い灰色の髪に、真紅のソファー生地の反射光が映える。両腕を脱力させて胴元を開いていることから、話すことは話した。もう自分に明かせる情報はない、ということだろうか。
もう外が暗い。
窓を見つめていたら、下方から、あ、という間の抜けた声がした。
「ひとつ思い出しましタ。彼が十字架に火を放った直後ですね。ちょうど風が吹いて、彼は松明より風下にいた訳です。そしてどうも体に小さくやけどを負った…らしい。」
…嫌だなぁ。と思った。
「実際に彼らに喋りかけたわけではなくて、役人同士の会話を小耳に挟んだだけですけどね。昨日いらしたその患者サマに、どこかやけどの跡はございませんでしたか?まぁ小さいものでしたらわから…」
「あった。」
あったのだ。診療所に入ってくる時、マフラーを解いたその襟元に。
「おや。」
薬屋は自身の片眉と口角をすいと上げた。私がその日初めて喋ったことをからかってなのか、それとも予測がピタリと当たった高揚感からなのか、私にはわからなかったのでこの場合私は何も言うべきではなく、それ以降黙っていたが。
「…。」
「顔が怖いですね。そちらの患者とわたしのクライアントが一致したのは、これは本当に偶然ですよ?」
この男、半笑いなのがとんでもなく癪に触ったが、両手を顔の横に降参のポーズをとっているためか、こちらからつっかかる気が起きない。
嘘もついていません。この場合わたしに得がありませんからね。とほざきながらさらに笑みを深くして、そして最後にこう言った。
「それに最悪、あなたに殴られます。」
なにを言っているのだ。
そこはどう考えても殴るではなく、「叩き斬る」だろう。
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