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第二診察
どれくらい時間が経ったか。診察にしてはたっぷり無言の間をおいて、患者の肘あたりがわずかにふっと曲がった。諦めから脱力したのだろうか。そして彼は、長く、ため息を吐いた後、ゆるゆると視線をこちらに漂わせて一言だけ言った。
「おっしゃる通りです。」
表情は役人らしく、努めて方正に振舞おうとしているようだ。しかし、手のひらは仰向けに太ももの上に崩れて、肩は猫背になっている。ゆっくりと視線を落としてまた、おっしゃる通りです。ともう一度呟いた。今度は私たちに向けられた言葉ではない。二回目のそれは、自分が聞こえて入ればそれでいいといったような。
「黙っていてすみません。ええ、ここから少し離れた地域で、役人として魔女狩りを取り仕切っています。」
患者はみるみるうちに疲れた表情になってきた。
これから自分がどうなるのかを想像したのかもしれない。非道と軽蔑される。この地域の魔女狩り団体に突き出される。悪魔の息のかかったものとして処刑される。狩られる側の心境を知って、狩る側であった今までの自分に制裁を下している。のかもしれない。今まさに私は裁く側にいて、裁かれる側の気持ちはわかるわけもない。
魔女当人ではないからだ。
先生は、その間ずっと静かに患者の姿を見つめていた。
「あの。私をこれからどう…どう扱うおつもりですか。」
「どうも何も、患者様の一人に変わりはございません。医者として病人に寄り添うのは当然のことです。」
最後の診察から、何か変わったことや気づいたことはありますか?と、先生はいつも通りの口調で優しく聞いた。
対し患者は、先生がおっしゃっていることが信じられないのか、疲れた難しい顔の中に驚きを隠せずにいる。背筋を伸ばして奴の目の前に座る先生と、その横に直立している私を、それこそ魔女のような奇怪なものでも見るような目で交互に見やる。
まぁ当然だ。魔女裁判は魔女をかくまっているととばっちりを食らうのだ。家の中のものが勝手に浮遊するだの何だのと言っている者が近くにいたら、常人であったらこんなところで静かに対面しているのではなく、一刻も早く役所に突き出すに違いない。
が、しかし先生は、常人ではない。
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