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嘘を暴かれ、感情を知られてしまった患者は、計画通り取り繕うことを完全に諦めたのか、自らゆっくり喋り出す。表情に変化はない。
「こんな部署に身を置いているにもかかわらずですね、私は正直、悪魔や魔女が信じられないのです。」
疫病の原因が、悪魔と契約を結んだ女、すなわち魔女にあるなんてばかばかしいと、患者は言った。最近では町のいたるところに黒くくすんだ色の植物が根強くはびこってしまって、地を覆う勢いで繁殖するという被害が出ている。この原因を押し付けてもう既に何人かが犠牲になっていることに耐えきれないとのこと。
思想が同業者に知られたとなったら今度は自分が処刑されることは目に見えている。幸いにも診療所は彼の住居から充分に距離があったため、ここに訪ねて来たらしい。
「魔女狩りに反対しているにもかかわらず、指名された立場故に断ることもできず、逃げ出す勇気もなく、命惜しさに魔女狩りに加勢している…。…私を、患者であることに変わりはないと言った。それが本心ならば、そんなあなたたちから見れば、私は卑怯者もいいところでしょう。」
椅子にしっかりと腰掛けて、そんなことを言う患者の表情は、ただただ疲れていた。
そして、患者が想定する「患者扱い」するのは実際先生だけで、私はいつでも患者を抹殺する準備ができているものの流石に言わなかった。
しかしどうなのだろう。人間は命が惜しければ大抵のことはしてのけるのではないだろうか。患者の境遇をよく考慮した上で、それを卑怯者と詰ることができる人が何人いるか。私にはわからない。
わからないが、私が知らなくてもいいことだ。
私の隣に座る先生は終始、静かなままだった。
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