第一診察

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 「それは一日に多くて何回見受けられますか?」  「ええと…一昨日は早朝に一回…帰宅してから三回でしたから四回程度でしょうか。」  そして建物の入り口から私を案内してくれた医療助手だが、常人のそれとは思えないくらいに、えらく目力が強い。なぜか目力を超えて一種脅迫じみたものを感じる。  巷では瞳孔を無理矢理開かせる点眼薬が出回っているくらいに、今の世の女性は眼球の色のついた部分を大きく見せたがっているらしい。そんな世間が羨むような黒目がちの目をこの助手はしているのだろうが、奴の場合その黒目が大きいだけ、根底から湧き上がる他者への不審を表情として発信する面積が多いというだけだ。この助手が他者への不信感を実際に抱いているかどうかは定かではないが、少なくとも人を信用しているような目つきではないと思う。  そしてなぜか顔の下半分を、黒色の防毒マスクで覆っていた。そのいかつさが、目つきの凄みに拍車をかけるのだろう。灰色に染まったボタンの無いシャツと、黒いスラックスにつくりの簡単な革靴という格好でなかったら、軍人と認識されていてもおかしくないと思った。  そもそも患者の私が診療所に来て二十分近くになるが、奴とは一言も言葉を交わしていない。入り口のファーストコンタクトでさえ、十数秒私の顔をじっとみつめてからドアを開き、片手で建物の奥を示し半身になっただけだった。  患者が子供なら大泣きである。  その助手はおそらく今、私の後方壁際にある薬品棚と同化するように、部屋の隅で診療の行く末を見守っているのだが。  ほんとうに助手なのだろうか。  書き物をしていた医者が、手元の板から顔を上げた。  「では今回の事例ですが、初めて発症した時刻は二週間と三日前で、時刻は午後四時から五時。一日に多くて三回程度。『家の中の物が勝手に小刻みに震える、浮遊する、明らかに不審なタイミングで落下する』…そして今の所、それはおそらくご自宅内に限る、ということで間違いございませんか。」  間違いないも何も、馬鹿げているとしか思えない。  「はい。概ねその通りです。」  その通りなのだ。  概ねというよりすべて。  潔く納得できないものの私は病人である。なんの因果があってかはわからないが、自宅のモノが勝手に動き出すなどという戯言に本気で悩んでいる病人である。
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