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その日は結局、精神安定剤と、食事に混ぜて摂取するタイプの薬草を持ち帰ることになった。また、日常生活で怪奇現象以外に印象的な出来事があれば記録してくるようにという課題も課されることとなった。
建物の外まで見送りについてきてくれた無愛想な助手に礼を告げて診療所を後にする。結局一言も言葉を交わさなかったが、医者曰く
「過去にあった事故でうまく声が出せない者なのです。」
だそうだ。
私が踵を返してから、ドアが開いた音がしない。助手はまだ入り口手前にいるのだろうかと思い、数十歩あるいたところで控えめに建物の方を振り返ってみた。
……居る。
…手厚いと判断して良いのだろうか。
振り返るのと同時に、診療所の後ろ側に広がる針葉樹林が暗く青いのを見てぞっとしてしまったため、迅速に目を逸らし見なかったことにした。しかしその風景は後も馬車乗り場にたどり着くまで、なかなかどうして何回も脳裏に浮かぶのだった。
月夜であることだけが、幸いだった。
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