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むせるような暑さ。 湿気を含む埃の匂い。 少し動いただけで汗が噴き出す気温。 七月の暑さの厳しいこの日の放課後、先輩に頼まれストップウォッチを取りに行った部室。 そこで私は、十六年間生きてきた中で一番居心地の悪い時間を過ごしていた。 ロッカーと壁の隙間に身を隠し、身動きできない身体。 先に部室にいたのは私だったはず。ましてやなにも悪いことなんてしていないのに、どうして私は今、こうやって身を隠しているのだろうか。 自分の置かれている現状が理解できなくなる。 それもそのはず。だって――。 「あっ……ちょっと待って、恭一郎君っ」 「だめ、待てない。誰が来るか分からないし」 部室の奥にあるロッカーの中を探していた時だった。突然ふたりが部室に入ってきたのは。 気配もなく入ってきたふたりに、私は咄嗟に身を隠してしまったれど、すぐに後悔の波の襲われてしまう。どうして隠れてしまったんだろうって。 でも動揺して当たり前。……だって突然部室に入って来たのは、入部当時からずっと憧れていた彼と、知らない女の子だったのだから。
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