#13

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会っただけでは気づけるわけがない。 「そうですよ、どうして名前が違うんですか? きょうくん、私には『あらいきょう』って名乗っていたのに……っ」 一番知りたいことをぶつけると、少しだけ坂本先輩の表情が曇った。 「それに関しては悪かったと思っている。……でも当時の俺は、お前になにひとつ嘘はついていないから」 嘘はついていない? どういう意味? 理解できない私に坂本先輩は話してくれた。 「俺……幼少期、ずっと母親から虐待を受けていたんだ」 「――え」 驚愕の過去に言葉を失ってしまう。 「食事もろくに与えてもらえず、ほったらかし状態。……覚えていない? お前に会う時の俺、いつも汚かっただろ?」 悲し気に瞳を揺らす彼に、思い出す。 そういえばきょうくんはいつも泥だらけだったと。 「家事もやらない人で洗濯も掃除もしない母親だった。おかげで着る服もなくてさ」 力なく笑う彼に胸が締めつけられてしまう。
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