1534人が本棚に入れています
本棚に追加
当時の私は、公園できょうくんに会えるのが楽しみで仕方なかった。
服が汚れていたのは、きょうくんがわんぱくだからだとばかり――。
幼かったとはいえ、あまりに無知だった自分に嫌気がさす。
「母親に俺はずっと『きょう』って呼ばれていたんだ。苗字も当時は『あらい』だった」
そうだったんだ、だから坂本先輩は私に『あらいきょう』だって名乗ったんだね。
「いつも腹空かせてたまにしか帰ってこない母親を待ち続ける毎日で、お前と会える時間だけが俺の救いだった。……お前に会えるから毎日が楽しみで仕方なかったよ」
初めて聞く当時のきょうくんの想いに、胸が痛い。
「でも、さすがに近所の人が気づいて児童相談所に通報されて。……俺は保護されたんだ」
もしかしてだから突然会えなくなってしまったの?
「帰宅することを許されず、俺は母親に引きとられることなく、施設に送られた。……小さかった俺では、今までどこに住んでいたのかなんて、分からなかった。会いたくても、会いにいけなかったんだ」
涙が溢れて止まらない。
ずっと知りたかった。どうしてきょうくんは突然いなくなってしまったのかを。
けれど心のどこかで、きょうくんも私と同じように幸せに暮らしているとばかり思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!