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だけど違ったんだ。
きょうくんは幸せじゃなかったんだ。
「正直、施設での生活は苦痛だった。友達もできなくていつもひとりでいて。母親が帰ってこない家にいるときと変わらないって思った。……そんな毎日で俺の心の支えはお前だけだったんだ」
ゆっくりと彼の腕が伸びてきて、優しく身体を抱き寄せられた。
「高校を卒業と同時に施設を出ることができる。やっと自由になれる。そのとき、会いに行こうって決めていた。……なのにまさか高校で再会できるとは思わなかったよ」
少しだけ距離を空けると、坂本先輩は至近距離で愛しそうに私を見つめ、優しく涙を拭ってくれた。
「俺のことなんて忘れていたお前のことを諦めようと思ったのは、悠一の存在があったからなんだ。……悠一は母親が性懲りもなく新しい男との間の子供で。偶然母親と一緒にいるところを見かけたんだ」
そう話す間も、彼の指は私の涙を拭っていく。
「母親と一緒にいる悠一は、昔の俺と同じように薄汚れた服を身に纏っていて、痩せ細っていて。……明らかに俺と同じ境遇だった。すぐに児童相談所に通報して、俺と同じように施設送りになった悠一を就職を機に俺が引き取った」
「そう、だったんですね……」
あんなに明るくて可愛い悠一くんにも、そんな過去があったなんて――。
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