#13

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「悠一と出会った頃の俺は、奨学金で大学に通う身で。今すぐに引き取りたくても無理だった。だから毎日のように会いに行ったよ。施設で暮らしているけどひとりじゃないってわかって欲しかった。……俺の生活の中心はいつも悠一だった」 私の涙が止まると、彼の手は今度は頬に触れた。 「あいつのために生きようと思った。悠一がそばにいてくれるなら、お前のことも忘れられる、いい思い出にできると。でもそんな時、お前とまた再会したんだ」 頬に触れていない手は背中を優しく撫でていく。 心臓は壊れてしまうんじゃないかってほど速く脈打っている。 なのに頬や背中に触れる彼の手は優しくて心地よくて、愛しいと思えてしまった。 「心が揺れたよ。でも俺はもう悠一のために生きようと決めていたから。もうお前に振り回されないって思っていたけど、無理だった」 「坂本先輩……」 「お前と荒井が仲良くしているのを見るとムカついた。仕事を頑張るお前を見たら力になってやりたいって思った。……俺がお前の教育係になったことで、面白く思っていない女がいると知って、お前に危害が向かわないようわざと厳しくしたり……。再会してからも俺はずっとお前に振り回されっぱなしだったよ」 初めて聞く彼の想いに胸は苦しいくらい締めつけられる。 知らなかった。気づくこともできなかった。 坂本先輩の想いに。
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