1521人が本棚に入れています
本棚に追加
/296ページ
「見られて困るのは、お前だろ?」
いつになく艶っぽい声に、自分が言われているわけではないのに、ドキッとしてしまう。
「でもっ……」
「いいから」
それを最後にふたりの会話は途切れてしまった。
ふたりに背を向けて隠れているから、ふたりの姿を確認することはできない。
――けれど、なにをしているのか。
それは容易に想像できてしまうから、居心地が悪い。
瞼をギュッと閉じて、両手で両耳を塞いだ。
見たくない、聞きたくない。……彼がどんな風に愛してくれるのか。抱いてくれるのか……なんて。
噂なんて信じていなかった。
彼が来るもの拒まずで、まるでゲームを楽しむかのように女の子を抱いている――だなんて。
自分の瞳に映るものしか信じたくなかった。
だって私が知っている彼は、誰よりも走るフォームがキレイで見惚れてしまうほどで……。
真っ直ぐ前を見据えて走る姿に、視線を奪われた。
口数が少なくて、おまけに彼はひとつ年上の先輩。同じ陸上部といっても、話す機会なんて皆無だった。
最初のコメントを投稿しよう!