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「見られて困るのは、お前だろ?」 いつになく艶っぽい声に、自分が言われているわけではないのに、ドキッとしてしまう。 「でもっ……」 「いいから」 それを最後にふたりの会話は途切れてしまった。 ふたりに背を向けて隠れているから、ふたりの姿を確認することはできない。 ――けれど、なにをしているのか。 それは容易に想像できてしまうから、居心地が悪い。 瞼をギュッと閉じて、両手で両耳を塞いだ。 見たくない、聞きたくない。……彼がどんな風に愛してくれるのか。抱いてくれるのか……なんて。 噂なんて信じていなかった。 彼が来るもの拒まずで、まるでゲームを楽しむかのように女の子を抱いている――だなんて。 自分の瞳に映るものしか信じたくなかった。 だって私が知っている彼は、誰よりも走るフォームがキレイで見惚れてしまうほどで……。 真っ直ぐ前を見据えて走る姿に、視線を奪われた。 口数が少なくて、おまけに彼はひとつ年上の先輩。同じ陸上部といっても、話す機会なんて皆無だった。
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