バレンタイン

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翌日、ノブが僕にちょっかいを出してくることはなかった。 と言うより、一日中話さなかった。 やっぱり…。 「蘭ちゃん、ちょっといい?」 放課後、逃げるように帰ろうとしていた僕を捕まえて、ノブはそう言った。 2月の屋上という寒い場所に連れてこられた俺は、寒さのせいもあり余計惨めで、今にも潰されそうな気持ちだった。 「ねー、昨日のチョコケーキって本命チョコ?」 「な、なんで…。」 「『Love You』ってプレート付いてた。」 「あ、あれは…。ごめん…。」 「謝るってことは、本命チョコなんだ?」 「ごめ…。」 涙が溢れる。 なんで渡してしまったんだろう。 これでもう僕とノブが話すこともなくなる。 「ごめんっ!」 ガシッ 走って逃げようとした僕の腕を、ノブが掴む。 「待てよ。」 「ほんと…ごめ…。」 「謝られると困る。」 「本命チョコなんて困るよね、ごめん。」 「違う。謝られたら、俺の気持ち伝えられなくなるから、困る。」 「え…ノブの気持ち?」 「そう。俺の気持ち。」 「気持ち悪いって…?」 「そーじゃねーよ。本命チョコなら、ちゃんとお返しするから。」 「え?」 ちゅ 時間にして0.01秒くらいだったかもしれない。 でも僕の頭を真っ白にするには十分過ぎる時間だった。 「これが俺の気持ち。 気持ち悪かったか?でも我慢できなかった。」 「え…あ…。」 「俺、ずっと蘭が好きだった。 でも言う勇気なくて。キモいって思われるの怖かったし。 バレンタインが男子向けだったらよかったのに、って毎年思ってた。」 「え…うそ…。」 「ホント。両思い…だよな?」 「ノブ…。」 「否定しないなら、肯定と受け取る! 俺と付き合え!」 「付き合うって…。」 「返事は?」 決まってる。 「う…うっ…うん…。」 涙声で、返事が上手くできない。 でもノブには伝わったようで…。 「記念のキスな。」 ちゅ 唇に触れるだけのキスが、現実と夢の世界を繋げてくれた。 「蘭ちゃん!帰ろうぜ!」 心なしか赤い顔をしたノブが、爽やか過ぎる笑顔でそう言う。 バレンタイン…。 男の子だって、「大好きな日」にしていいよな?
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