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森野さんと飲みに行くのは気休めのようなものだった。覚悟を後押ししたかっただけかもしれない。
優が偏見の目に晒されて生きてきたことは、自分もそうだったし十分理解している。でも優と結婚して後にあのことが例えバレたとしても、婚姻無効になったとしても、事実婚なり何なり一緒に生きていく方法があることも十分知っている。
――そんなことは問題じゃないのだ。
事実を知ってしまって以来、雫はどうしても優を自分の弟としてしか見られないのだった。女の母性本能というのは厄介なもので、親子でなくても反応してしまうらしい。優を大切に思う気持ちは変わらないけれど、男性として愛することはもう一生できないだろう。
そしてそれを知ったときの優のことを思うと、いたたまれなかった。
あの子は――雫のなかではもう姉が弟に対する”あの子”なのであった――生まれてきて初めて愛した女性が自分の姉だったなんていう運命を知る必要なんてない。
婚約までした恋人を失って傷つくだろうけれど、いつかそれを癒してくれる素敵な女性と恋に落ちてくれることを祈って。私はあの子の前から姿を消そう。
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