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雫の決意は固かった。
――いままでの人生で一番性格悪いことしてるな、わたし。
そんなことを思いながら、雫はいつもよりだいぶ近い距離感で森野をあのバーに連れて行った。マスターの前でも、わざと思わせぶりな仕草をとる。――願わくば優がもし訪ねてきても、私が不倫していたと勘違いしてくれるように。そして嫌って優の方から私を切ってくれたらいい。
「……法律上は誰かが認知を求めない限りは無効にされることはなくて、されたとしても事実婚はできるということですね」
「あの、麻野さん。どうしてそんなことを……?」
雫が森野を選んだのは、口が堅いからというだけではない。弁護士は聡い人が多くて困る。この男は雫への好意からなのか、簡単に信じてくれるところがあった。
「まあ、仕事の関係でね。えっとつまり、どちらにせよ世間的にタブーであることには変わりないということですね?」
「まあ……、地域や文化にもよりますが、そういう可能性が高いですね」
「分かりました。私に相談してきた人にもそう伝えておきます」
「そうですか……」
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