最終話

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 店を出ると外は雪が降っていた。天気予報通りだ。  送っていくと言う森野を一緒にいるところを見られたくないという強引な理由で断り、駅の改札で森野と別れた。彼は雫とは使う路線が違うので、ちょうどいい。  ――雫は自分が()のためなら、こんなにもひねくれたことを簡単に出来てしまうことに、内心で驚いていた。  森野の姿が見えなくなってから、バーのある方向へと引き返す。途中の自販機でコンビニでビールを購入して、三缶一気に開けた。  バーでもけっこうなアルコールを入れていた。薄れてきた意識の中でも足取りがだんだんと覚束なくなっているのが分かる。歩道橋まで歩きながら最後の一缶を飲み干して、近くの自販機横のごみ箱に捨てた。  手すりに掴まって階段を登る。手の跡はこのあとの雪が隠してくれるだろう。  階段の一番上まで登ったところで下を見下ろすと、自分の視界が滲んでいることに気づいた。  ――優、ごめんね。こんな恋人で、こんな姉で、ごめんね。ちゃんと幸せになってね。  涙を拭うこともせず、ヒールの先だけに体重を乗せる。狙い通り摩擦の小さくなったタイルは雫の身体を滑らせてくれた。  ――優、さようなら。
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