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「これ。伊波さんとお義兄さんと、それから”彼ら”に」
伊波の義兄の喫茶店に二人は来ていた。今回は店を指定したのは優の方だ。相変わらず読めないメニュー表から、また適当なコーヒーの注文を伊波に任せる。
優は持参してきたお菓子の入った紙袋を取り出した。海外の高級ブランドのチョコレートである。正直何を渡せばいいか分からなかったし、無難なものを選んだつもりだ。
「えっ、こんなにたくさん……?」
伊波は驚いて、受け取ろうと伸ばした手を途中で止めた。人数分の倍以上はある。
「何人いるか分からなかったもので。箱の数が足りなければ適当に分け合ってもらえると助かります」
優の横に開いた唇は白っぽく、カサカサしていた。
「いや、それは十分ですけれども……」
「伊波さんには、感謝してもしきれないんです」
優ははっきりとした口調でそう言った。
雫が自殺だったと思われることは、”あの一件”のあと伊波にだけ電話で伝えた。余計な心配をかけたくなかったので、姉弟であったことは伏せて。
静子と健司には話すべきかどうか何度も迷ったけれど、結局どうしても伝えることはできなかった。
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