第一話

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 事のオチをつけるにはあまりにも簡単で、あまりにも呆気なかった。  今朝がた近隣住人からの通報があったという連絡を受けて、歩道橋の下に車を走らせた。加賀野が現場に到着したときにはすでに遅かった。夕べの雪で足場は最悪で、駆けつけるのにかかった時間はいつもより少しだけ長いかもしれない。しかし、そのことがなくても彼女が生きていた可能性はゼロである。  当たり前のように思える日常が、こうやって呆気なく幕を閉じてしまうことがある。そういった現場を数えきれないほど見てきた。  まだ若いのに。女性の年齢が娘と近いこともあって、どうしても重ねてしまう。加賀野は遺体と対面した時の遺族の気持ちを思うと、いたたまれなかった。  加賀野は先ほど見届けた女性の左手の薬指にはめられていた、0.3カラットのダイヤを思い浮かべた。
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