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新風の話はこうだった。商店街の組合会議で、ちょうど今ウェブ展開の話が持ち上がっている。商店街全体のサイトを一つ作り、各店舗の業種と連絡先程度の簡単な紹介も入れるが、店の依頼次第で、より充実した店舗紹介ページも作っていく。各店舗ページの制作費用は基本的には店持ちだが、組合からも何割か援助することになっている。
「やっぱり最近、ショッピングモールにお客を取られがちで経営難の店が多いからね。でも“昔ながらの商店街”っていうのが付加価値に見られる向きもあるでしょう。そこをもっとアピールしようって話だね」
新風の説明を聞きながら、珠里は頭の中で整理する。
「つまり……商店街サイトが立ち上がった後も、しばらく店舗ページの依頼が続く可能性もあるってことですか」
「反応が良ければね。それと、商店街サイトで全面的に押し出す新しいマスコットキャラクターの作成も依頼したい」
「マスコット……!」
未央が思わず声を上げて、それから恥ずかしそうに口をつぐむ。
「つまりゆるキャラだね。未央さんは得意だろう。これも好評なら着ぐるみ作ってイベント事に登場させようなんて案もあるよ」
社会人経験の浅い二人にも、こんなに条件のいい仕事はないように思える。
「もともと私がツテで制作会社を探すように頼まれてたんだよ。紹介されたフリーランスのプログラマーとデザイナーってことにして、二人が作ることは、まずは伏せましょう」
珠里も未央も、その方がいいと思った。「カプレッティ」も「もんた牛」も、商店街の中では目玉の人気店だ。未央と珠里が一緒にサイトを作っているなんて知ったら、双方の店主が猛反対するのは明らかだ。
「ただし、納期は絶対に守ること。クオリティが低きゃ次の仕事は来ないけど、納期が守れなきゃ契約違反だからね。簡単なことじゃないけど、できるかい」
二人は同時に、深く頷いた。
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