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炊飯ケーキ
「…だから、今度の日曜、会社の事務の人がお茶しに来るのよ。」
困ったような顔で夫の義彦に愚痴をこぼすのは、妻の奏恵(かなえ)。義彦の方が3つ程歳下である。言わば"姉さん女房"という奴だ。
話を聞くに、手作りのお菓子を持ち寄るという謎のルールがあるそうで、一番に奏恵を悩ませているのは其処である。出なければGODIVAとかKALDIとかいう手合いの辺りで洒落たものを買ってきて今頃は冷蔵庫で寝かしつけられているだろう。
そこで、義彦の出番である。
"創作料理に大学生活を捧げてきた男"。集めた料理本から頑張って料理をしようとするも設備や道具が足りず挫折し続けた彼には、"家にあるごく一般的なもので何とかできる創作料理"に関する知見とレシピがその記憶容量に詰まっている。
料理が"できない事はない"という奏恵からすれば、義彦に一番魅力を感じている点はそれである。そこを除ければ"ただの柔道部の汗臭い男"と認識する他ないのだ。
とにかく、奏恵の中では"食に困れば義彦"なのである。意外にもこれが苦になっている訳でなく、頼られる事は体育会系の義彦にとっては照れ臭い事であった。おそらくそれが夫婦であるからだろう。
「ケーキなら作れる。」
「ちょっと、うちはオーブンなんて無いわよ。ケーキって言ったってフライパンでホットケーキしか…」
「炊飯器があるだろう」
奏恵には理解できなかった。狭い知見でしか物事を見極められないからこそ素人なのだと、義彦は勝手に奏恵の様子を理解していた。
「炊飯器でできるんだ?」「うん」
信頼のせいか奏恵の納得は早い。
「設備が無くてもできるという事が、創作料理は大事なんだ。」
名言、と不覚にも奏恵は思ってしまった。
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*炊飯ケーキ(チョコ)
材料(6切分):
ベーキングパウダー…150g(小分け1袋)
板チョコ(ビター)…2枚
ココア…大さじ3杯
牛乳…100㏄
鶏卵…1個
グラニュー糖…12g(コーヒー用の砂糖3本分)
道具:
炊飯器
泡だて器
ボウル
手鍋
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