One day in autumn

5/10
前へ
/10ページ
次へ
へとへとに疲れるくらいに、引っ張り回されたものの、僕はずーっと笑っていることに気づいた。 こんなに笑ったのなんて久しぶり。 いつしか僕は、こうした身勝手な彼女との逢瀬を、楽しみにするようになっていた。 *** 「どうしたんだ?」 6月。 二回生に上がって、ルーキーたちも落ちついてきはじめた梅雨の始まり。 講義を受けていると、金木犀のにおいを連れて、後ろからそっと千秋が隣に座って来た。 顔色が悪い。 「んー。何でもない。風邪かなぁ?」 それでも、くしゃっと笑った彼女の顔は、ひどく弱々しく見えた。 「代返しといてやるから、帰って寝てろよ?……熱…あるみたいだし。」 おでこに手を当てると、彼女は一瞬身体を震わせた。 ぽーっと紅くなる。 座ってても差のある僕のほうを見上げた千秋の紅い顔に、前触れもなくひとすじ涙が伝う。 「えっ? えっ? 痛かった? ごめん! 」 千秋はふるふると顔を振って 「ううん。ほんとにやさしいなぁって。……嬉しいなぁって。」 「何言ってんだよ? とにかく今日は帰って病院でも行きな。笑ってない千秋見てんの、なんかやだし。ちゃんと直して、また元気に笑って逢おうぜ?」 そう言っておでこを撫でてやると、みるみる彼女の目にいっぱい涙が溜まっていく。 「わっ!泣くなってば。なんでだよ?落ちつけ!」     
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加