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へとへとに疲れるくらいに、引っ張り回されたものの、僕はずーっと笑っていることに気づいた。
こんなに笑ったのなんて久しぶり。
いつしか僕は、こうした身勝手な彼女との逢瀬を、楽しみにするようになっていた。
***
「どうしたんだ?」
6月。
二回生に上がって、ルーキーたちも落ちついてきはじめた梅雨の始まり。
講義を受けていると、金木犀のにおいを連れて、後ろからそっと千秋が隣に座って来た。
顔色が悪い。
「んー。何でもない。風邪かなぁ?」
それでも、くしゃっと笑った彼女の顔は、ひどく弱々しく見えた。
「代返しといてやるから、帰って寝てろよ?……熱…あるみたいだし。」
おでこに手を当てると、彼女は一瞬身体を震わせた。
ぽーっと紅くなる。
座ってても差のある僕のほうを見上げた千秋の紅い顔に、前触れもなくひとすじ涙が伝う。
「えっ? えっ? 痛かった? ごめん! 」
千秋はふるふると顔を振って
「ううん。ほんとにやさしいなぁって。……嬉しいなぁって。」
「何言ってんだよ? とにかく今日は帰って病院でも行きな。笑ってない千秋見てんの、なんかやだし。ちゃんと直して、また元気に笑って逢おうぜ?」
そう言っておでこを撫でてやると、みるみる彼女の目にいっぱい涙が溜まっていく。
「わっ!泣くなってば。なんでだよ?落ちつけ!」
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