One day in autumn

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「もしも君に会えるなら、渡そうと思ってたんだ。これは千秋の日記だよ。5年前。あの子が病院で王子様に出逢った時から書き始めた、王子様への想いを綴った日記だよ。君にはとても重いものだろうし、申し訳ないとは思うんだけど、帰って来れるか分からない娘のためにも、それを読んでやって欲しいんだ。あの子の王子様、君への想いがどれほどのものかを、覚えていてやって欲しい。どうかお願いします。」 僕は黙ってうなずき、ノートを開いた。 *** 涙が止まらなかった。 高1の秋。 僕は確かに千秋に逢っている。 大事故に遇って、大手術からの奇跡の生還。 しかし、楽しいはずの高校生活を送るはずだった彼女に与えられたものは、いつ爆発するかも分からない爆弾だった。 体力的にも精神的にも限界だった頃に、ふと、見舞いで病院を訪れていた僕に出逢って、病院の庭に咲いていた金木犀の花を手渡され、がんばろうって励まされた。 僕が、同じ高校の同級生と知った彼女は、辛いリハビリにも耐え、退院後も何度も何度も挫けそうになる自分を、僕が渡した金木犀で作ったポプリを身にまとって、奮い起たせながら頑張って来た。 いつか、僕と並んで歩く日を夢見ながら。 大学で初めて出逢った時、僕が見覚えがあるって言ったことが、どれほど嬉しかったか。 どんな無茶を言っても、どんなわがままを言っても、優しく受けとめてくれたこと。 そして、生命を脅かされ、ずっと苦しんで来たこの血腫に立ち向かおうと決められたって。 来年も再来年も、ずっとずっと僕と一緒に笑っていたいって。 僕が、笑ってない千秋は嫌だから、元気に直してまた逢おうぜって、背中を押してくれたって。     
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