無視

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無視

 もう何年も前に、アドレスから電話番号を消した。  なのにまだ、その番号から電話はかかってくる。  死んだ恋人の電話の番号。  とっくに登録は抹消されているから、たまたまその番号を今使っている人が、凄すぎる偶然で私に電話をかけてしまったという可能性も、奇跡的な確率で存在しているかもしれない。  でも赤の他人は私の名前なんて知らないし、ましてや、二人きりの時にだけ呼び合っていたあだ名なんて知る由もない。  以前、うっかり電話に出た時に呼ばれたあだ名。呼ぶ声音にも呼び方にも覚えがありすぎた。  だからその番号からの電話には、私は決してでないようにしている。  怖いんじゃない。ただ、この世に執着していることがあるといつまでも成仏できなくて、それは亡くなった人にはよくないことだと聞いた。  だから私は電話に出ないよ。  もう一度、懐かしい声で二人だけの秘密の呼び名を囁かれたい。その気持ちはあるけれど、それ以上に、どうか安らかな眠りについてほしいという気持ちが強い。  今でも好き。大好きだよ。だからごめんなさい。あなたの電話に私は出ない。 無視…完
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