愛は砂上の楼閣のように

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 朱音の考えた復讐だったなんて、露ほども思わなかった。ひとことも言葉を発しずに朱音を抱きしめていた旭が、伏せていた顔を上げる。 「愛してる朱音の頼みだったからさ。まあ、男同士ってのに興味もあったし、楽しかったよ」  奏多に向かって愛してるよと告げていた口が朱音を愛しているという。冷たささえ感じる言葉と表情に、この5年が偽りのものだったと嫌でも気づかされた。 「旭の言葉を真に受けて、必死でチョコを作ってるあんたは見物だったわ」  自分にそっくりな顔が(いや)な笑みを浮かべて見ている。冷水を頭からぶちまけられたように、奏多の全てが凍りついた。 「――そっか……ふたりで面白がってたんだ。――全然気づかなかったおれが莫迦なんだね。……ふたりとも普通の会社員なんか辞めて役者になった方がいいよ……」  その言葉を鼻で笑った朱音が旭の首に腕を回し顔を近づける。そんなふたりを見ていられなくて、近づく口唇が重なり合う寸前に奏多は玄関を飛び出した。手にしていた合鍵をシューズボックスの上に置くことを忘れずに。 閉まるドアの隙間から、朱音の嘲笑(ちょうしょう)が聴こえた気がした。
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