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愛は砂上の楼閣のように
――どうして……。
2月の寒空の下、その言葉だけを譫言のように呟きながら、我武者羅に走る佐々野奏多の頬を止め処なく熱い雫が流れ落ちる。凛とした夜の空気が凍てつく寒さで涙から熱を奪っていった。人通りがなく街灯も少ない細い路地に、奏多の足音だけが響く。
水中で目を開けているような滲んだ視界の中、震える手で鍵を開けようとするが鍵穴に上手く鍵が差し込めなかった。やっとのことで開錠しドアを開けるのももどかしく、隙間から躰を滑り込ませる。後ろ手にドアを閉めた瞬間、玄関の三和土に膝から崩れ落ちた。
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