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八十二話 カフェにて
「よーし! 王都到着ー!!」
王都へ行きと決まり、シオンの影魔法で王都へ来た四人。
「ミッちゃんお城行こっ!」
「わわっ、引っ張らないで下さいよー」
機嫌も直ったリンに引っ張られ王城へ向けて走り出すミイナ。走り去った二人と残された二人。
「さーて、俺達はどうする? 野郎二人で王都観光と洒落こむか?」
「……シオンボーイ。君に案内したい所がある。付いてきたまえ」
「あん? ……お義父さんが王都案内してくれるなんてシオン感激〜!」
「………………」
「………………」
残された二人は無言で歩き出した。
「いやーやっぱりおっきかったね〜。大迫力!」
「そうですね〜」
王城を見学後、二人はカフェに来ていた。店内は中々に盛況で女学生達の集まりや紅茶と本を楽しむ老紳士、子供と半子供の師弟など様々な人達で賑わっていた。
「! このケーキすっごいおいしい!」
「ホントですね! それに紅茶ともよく合います」
二人が注文したのはケーキとドリンクのセット。それぞれ違うケーキとドリンクを頼み、交換しようねなんて言っていたがリンはもう半分以上食べている。
「師匠のケーキとは大違いだな〜」
「師匠、えっ!? コウジさんってケーキ作れたんですか!?」
「そうだよ。ケーキも料理も何でも作れるよ。ケーキも今じゃプロ級だよ」
「ええ!?」
あのコウジが料理、それもケーキすら作れるということに衝撃を受けるミイナ。そして、思わず想像したエプロン姿に苦い顔をする。
「まあ、師匠は天才ってやつなんだよ。何でも出来るし、何でも作れる。うざいよね」
「ははは……」
リンの言う事はもっともだが、自分の師匠の師匠である者に対してうざいと言っていいのか微妙なところ。本音は言わず建前で愛想笑いするしかなかった。
「でも、一回目からうまくいくって訳じゃなくて、ケーキも初めて作ったのはひどかったんだよ。ボクが七歳の誕生日にケーキ食べたいってダダこねたら作ってくれたんだけど、全然美味しくないの。なんか硬いし、変に甘いし」
「へえー」
あの自信家変人ナルシストも失敗したりするんだーとミイナ。普段の様子からは失敗しているところはあまり想像出来ない。
「それから毎年作ってくれてどんどんうまくなっていたんだけど、ボクにとってはあの初めてのケーキが師匠のケーキなんだよ」
懐かしむように最後の一口を頬張るリン。完成された甘みに幸せそうに頬をふくらませている。交換のことなどすっかり忘れた様子で。
「へえー。あのコウジさんが。……そう言えば、昔のコウジさんってどんな感じだったんですか?」
「今とそんな変わらなかったよ」
「あっ、昔からあれ……。お仕事とか何されてたんですか?」
「仕事? うーん、なにしてたんだろ?」
「えっ!?」
まさかの回答。ミイナからすれば親が何の仕事をしているのか知らないというのは衝撃だった。親の仕事と言えば、将来自分がすることの可能性の高い仕事。知る必要があるし、何より無理矢理手伝わされることも多々あった。
「決まった職場がある訳でもないし、冒険者登録してる訳でもないし、ホントなにしてたんだろね?」
「ええ……」
それはこっちが聞きたいとしか思えないミイナ。
「でも、別にお金に困ってるってことはなかったよ。欲しいって言えば何でも買ってくれるとかじゃなかったけど、ご飯はちゃんと食べれたし、おもちゃもちょっとだけ買ってくれたし」
「へえー……」
無職なのにお金に困ることはない。ますます謎は深まるばかり。
「まあ、親子っていうより昔から師匠と弟子だったし今とホントに変わらないよ。剣の修行だけじゃなく、普段の生活もそんな感じ。文字の読み書きとか食器の使い方とかマナーがどうのこうとか。全部師匠として弟子のボクに教える感じ」
親子ではなく師と弟子。こういう親子関係もあるのかとミイナは思う。自分や周りにはそういう感じはなかったなと思いながら。
「……ずっとコウジさんと二人だったんですか?」
「そうだよ?」
「あっ……そうなんですね……」
「? なに?」
「え、いえ別に……」
歯切れが悪くなったことを誤魔化す為に紅茶へと手を伸ばす。すっきりとした味の中にある苦味が妙に際立って感じる。
「? 学校も行ってないし、お母さんもいなかったし、ずっと師匠と二人だったよ。お母さんはボクを産んですぐ死んじゃったって」
「え……」
予想は出来たが微妙にミイナの予想と違った。普段のコウジを見るにただの離婚だろうと予想したが死別だったとは。
「おじいちゃんとかおばあちゃんにも会ったことないなぁ。まあ、あの師匠だから親からカンチョー?されたんじゃない?」
「勘当です……」
言い間違いはともかく、あっけらかんと言い放つリンにミイナは少し疑問に思う。何故こんなにあっけらかんと言い放てるのだろうと。
「ああ、カンドーね。カンドー」
「……会ってみたいとか思わないんですか?」
「え? 別に。顔も知らないし。いないのが普通だったし今さら会ったところでギクシャクしちゃいそう」
「そう……、ですね」
「そうそう」
「………………」
「………………」
二人の間に沈黙が流れる。紛らわす為に再び紅茶へ手を伸ばすミイナとそれをじっと見つめるリン。そして、この沈黙を破ったのは
「……ほら、ミッちゃん早く食べて! 観光行こう!」
リンだった。
「え?」
「ほら、早く。なんかよく分からない空気になっちゃったから観光行って吹き飛ばそうよ!」
本当に何故こんな空気になったのか分かっていなそうなリンは空気を変えるなら場を変えようと提案する。強引だがリンらしい提案でもあった。
「早く早く!」
「わ、分かりましたから! あむっ、うむうむぅぐっ! ゲホゲホゲホッ!」
「ええ!? 大丈夫ミッちゃん!? そんなに急がなくていいのに!」
「……リンさんが急かしたんじゃないですか……」
「大丈夫!?」と言いながら急かす師匠。むせながらも待つ師匠の為に紅茶で流し込む弟子。そして、幼き師弟は店を出て観光へ。
その様子を老紳士は目を細めて見守っていた。
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