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八十八話 古本屋 ②
あるところに二人の王子様がいました。兄はプライドが高く、傲慢で高圧的、謀略を企むのに優れ多くの有力貴族を取り込んでいました。一方、弟は温厚で誰に対しても同じ目線で対応し、頭も身体能力も優れ庶民から人気のある人物でした。
対照的なこの二人の王子。弟は兄を慕っていましたが、兄はそうではありませんでした。
仲良くはない兄弟でしたが喧嘩をするという訳ではなく、お互い不干渉という距離を取った接し方をしていました。
……これが後に起こる事件の原因の一つにもなりました。
ある時、彼らの父である王が病を患い、余命幾ばくとなってしまいます。そして、王が死ぬとなれば次の王を決めねばならない。二人の王子のどちらかを次の王へと。
権力に固執する兄はもちろん次の王になりたがり、なるものだとも思っていました。自分は兄であり多くの有力貴族を従わせているのだからと。
弟もまた兄がなるものだと思っていました。兄は人を従わせる力があり王には兄の方が向いていると。
しかし、王は違いました。
王は弟を次の王へ指名したのです。
それを知った兄は王である父へ問い迫ります。何故自分ではないのか?自分ならこの国をより強くできると。誰にも負けない国を作れると。粘り強く説得に当りましたが王は頑なに首を縦に振りません。そして、そのまま王は崩御されました。
王の亡き後、遺言通り次の王へは弟がなりました。元々庶民から慕われていた弟は多くに歓迎され王の座へと。そして、貴族達も王となった弟へ媚びへつらうようになりました。
一方、兄は有力貴族達も弟へと行ってしまったことにより立場も弱くなり、以前より肩身の狭い思いをします。これはプライドの高い兄にとって耐えられるものではありませんでした。
何故自分がこんな思いをしなければいけないのか? 何故こんなことになったのか?
弟が。弟が王になどならなければ……。
そうだ。弟を殺そう。
思い立った兄は一人のある兵を脅します。弟を殺さなければお前の妻と子供を殺すと。脅し、実際に兵が従わなければ死が訪れる呪術をかけ妻子にかけます。
……そして、ついにその時が来ました。
脅された兵が弟を殺したのです。
…………その後、兄は王となりました。弟を殺したのは賊の仕業としとある地方貴族をその賊に仕立て上げ処刑し事態を無理矢理収めました。
混乱もありましたが、犯人も処刑され国はまた平静を取り戻し、前と変わらぬ日々を送るようになりましたとさ。
「と言うお話です。いかがですか?」
老紳士のお話しが終わる。話しを終えた老紳士はそれを真剣に聞いていた二人へと問いかける。
「……嘘は良くないよ」
「……権力の為に実の弟を殺すなんて考えられません。しかもそれを嘘で隠すなんて」
問われた二人は答えを投げ返す。嘘は良くないことだと。
「そうですな。嘘は悪いこと。しかし、こうも考えられないでしょうか。兄は嘘をついていない」
「どういうこと?」
その答えに対し老紳士はこう投げ返す。嘘は悪い。だが、嘘はなかったと。
「真実を知る者からすれば兄は嘘をつきました。しかし、弟が兄に殺されたという証拠もなく、捜査の結果賊による犯行という声明が出た。それ以外の者からすれば嘘があったなど知らない訳です。そして、真実を知る者を排除すれば嘘など無くなってしまうのです」
真実を知らず、嘘しか知らない者からすればそれが真実となる。真実を葬れば、嘘は本当の真実となる。嘘はなく、あるのは真実のみ。
「力持つ者がついた嘘は嘘とならない。私はこう思いました。嘘も力で抑え込めば真実となる、と」
「……でも、そんなの良くないよ」
「そうです。良くないことです。しかし、良くないことが良くないこととされないこともある」
「どうにかしようとしないの?」
まっすぐ老紳士を見つめるリン。その瞳を見て老紳士は何を思うのか。じっと見つめ、小さく笑みを零す。
「もちろん、抗う者は現れます。息潜め策を巡らし好機を待ち、嘘を真実とさせない為に。真実とされた嘘を嘘であると暴く為に」
老紳士の眼には揺るがぬ意志の光が宿る。口から紡がれる言葉には決死の響きが。物語はまだ終わりを迎えていない。
「しかし、一度真実とされた嘘を嘘と暴くのは難しい。ましてや相手は力を持つ者。だから、力を持たざる者は複数人で協力して対抗するのです。志を同じとする同志達と」
古本屋の入口が開く。そして、入って来たのは
「戻ったぞ……、リン!?」
「え!? 師匠!?」
コウジだった。
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