九十一話 古本屋 ⑤

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九十一話 古本屋 ⑤

「よーし! それじゃあ、師匠が何を隠してるのか探りに行くよ!!」 「「おー!」」    元気よく二人は拳を空へ突きあげる。ジメッとした空気はどこへ行ったのやら、カラッと決意に満ちた瞳の二人。   「……と思ったけど今戻るのは気まずいから明日にしよう」 「ええ……」  決意に満ちていたのは一人だけだった。 「だってぇ、あんなに怒ってボクの方から出てったんだよ? それなのに、またすぐ戻ってくるなんてどんな顔して戻って行けばいいのか分かんないよ……」  もじもじと恥ずかしそうに話すリン。気持ちはミイナも分かる。が、 「そんなの気にしなくていいじゃないですか。リンさんはいつもあんなのですよ」 「どういうことっ!?」 「そういうことです。はいはい、いつもみたいに勢いよく行きますよー」 「ええー……」  自分は恥ずかしくないからどうでもよかった。 「うう〜、ホントに入るの……?」 「ここまで来て何を言っているんですか。ほら、早く入って下さい」  古本屋の扉の前まで戻って来た二人。だが、その扉の前で足踏みを。 「いや、ほら、入らなくても出てくるのを待つとか、もっとこそっと隠れて探ったほうがいいんじゃない?」 「それが出来たら苦労しませんよ。昨日なんてそもそもコウジさんを見つけることすら出来なかったんですよ? 尾行とか簡単にバレますって」 「うっ。……で、でも、やってみないと分かんないって言うかなんて言うか……」  扉を目の前にうじうじとリンは足を踏みまくる。なんとかリンに開けさせようと始めは思っていたミイナもついに我慢の限界を迎えた。 「もう! じゃあ、私が先に入りますんで後から入って来てくださいね」 「え! ちょ、ミッちゃん待っ……」 「こんにちはー」  リンが言い終わるのも待たずミイナは扉を開ける。カランコロンと鈴が鳴り来客を店員へと知らせる。そして、すぐに 「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」  フリルのついた制服を着た女性店員が駆け寄ってきた。 「……え? ……あれ? あれ? あれぇ!?」  駆け寄って来た店員を目の前に大声で素っ頓狂な声を出すミイナ。驚くミイナと同じくらい店員も驚いている。なんだこの客と。 「す、すみません……。ちょっと、間違えました」  一歩下がってパタンと扉を閉める。そして、二人して顔を見合わせる。 「……合ってますよね?」 「……うん。ここだよ」  店の外に出た二人はもう一度店の外見や周りの位置を確認する。ついさっき来ていた場所だ。忘れる訳ないし間違える程二人の頭は悪くない。さっきも見た店の外見、同じ扉の感触、完全にさっきと同じ。 「合ってますよね……」 「うん。……開けるよ?」 「はい……」  外見よし、位置よし、記憶よしと全て確認してここで間違いがないことを確信する二人。間違いなくここがさっきの古本屋。  そして、今度はリンが扉へ手を掛け、押し開ける。 「あっ。……いらっしゃいませー」  開けた先にはさっきと同じ光景が。フリフリの制服を着た女性店員が光の無い目で二人を見ている。なんだこの客と。   「な、なんで?」  一方、二人はそんなことなどお構い無しにオロオロ。古本屋に入ったはずなのに中は喫茶店。白髪の老紳士ではなくフリフリの女性。本棚などなくオシャレな机と椅子と女性客。 「あ、あの、ここって古本屋じゃ……」 「古本屋? いえ、喫茶店ですが?」  信じられないという目で見る二人を信じられないという目で見る店員。お互いが信じられないものを目にしているという奇妙な状態に陥っていた。 「で、でも、さっきまでここは古本屋でしたよ……?」 「さっき? あの、この店は十年以上前からここにありましたが」 「ええっ!?」  二人の知らない間に十年以上の時間が流れてしまったのか。いや、そんな訳がない。自分も街の風景も何一つとして変わっていない。変わったのはこの扉を開けた先だけだ。 「な、なにが……」 「どうなってるの……?」  理解不能な出来事に戸惑い終始オロオロとする二人。店員から見ると扉を開けたり閉めたりして驚いている意味不明な二人。 「……あの。入られるんですか? それとも、入られないんですか?」  戸惑う二人に店員が声をかける。言葉丁寧で顔も笑っていたが目と声は笑っていない。それもそうだ。店からしたら二人は出入り口を塞いで店に入る気もなさそうな厄介すぎる存在に他ならないのだから。 「え、あっ、すみません! お邪魔しました!!」 「ごめんなさい!」  慌てて二人は店内から退出する。何も注文せず席にすら着くことなく店の入口を塞ぐ。客とすら呼べぬ迷惑からやっと一般人へ。だが、それは振り出しに戻っただけだった。 「…………どうしましょう」 「…………どうしよう」  閉めた古本屋の扉の前で呆然とする二人。コウジと会うどころか知らない間に異世界に迷い込んだんじゃないかと思えてきてただ呆然とする。  どうしたものか。唯一だった道標が急に無くなってしまった。新たに考えようにも突然のことで頭が回らない。そもそも、回ったとしてもこの状況を解決出来ることを思いつけるわけでもない。  言葉を失った二人はただ呆然と扉を眺めていた。古本屋に繋がっているはずのその扉。二人にとっては唯一の道標。それが今やただの扉。  それが開いた。 「あー頭いてぇ……」  ガチャと開いた扉。内から外へと開けられた扉から出て来たのは一人の男。 「え? あっ!」 「え?」  その男を見てリンが声を上げる。その声を聞いて男は顔を上げる。雑に伸びた髪の毛に手入れのしてない無精髭。そして、抜けきらぬ酒臭さ。 「お前! 昨日の!」  昨日ぶりの因縁の再会だった。
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